建設プロジェクトにおける契約形態の選択は、プロジェクトの成功、つまり利益に直結する重要な要素です。
本記事では、土木エンジニアの視点からランプサム契約とコストプラスフィー契約について詳しく解説し、それぞれのメリットとデメリットを比較します。
ランプサム契約とコストプラスフィー契約の定義と特徴
ランプサム契約(ランサム契約)定義と基本概念
ランプサム契約(Lump Sum Contract)とは、施工業者が予め合意された固定価格で全ての作業を完了する契約形態です。
この契約形態では、全ての施工範囲や仕様が明確に定義され、変更が少ないプロジェクトに適しています。
ランプサム契約の特徴
- 固定価格: 予算が確定しているため、発注者は予算超過の心配がありません。
- 明確な範囲: 契約内容が詳細に規定されているため、後の変更が少なく、管理が容易です。
コストプラスフィー契約(実費精算契約)定義と基本概念
コストプラスフィー契約(Cost Plus Fee Contract)は、発注者が実際にかかったコストに対して一定のフィー(利益)を支払う契約形態です。
この契約形態は、設計が未確定であったり、変更が予想されるプロジェクトに適しています。
コストプラスフィー契約の特徴
- 変動価格: 実際のコストに基づいて支払いが行われるため、柔軟な対応が可能です。
- 柔軟な範囲: 設計変更や追加工事に対して柔軟に対応できます。
ランプサム契約・コストプラスフィー契約のメリットとデメリット
ランプサム契約のメリット
- 固定価格の予算管理: 発注者は最初から総費用を把握でき、予算管理がしやすい。
- リスクの転移: コスト超過のリスクは施工業者にあるため、発注者にとってリスクが低い。
- シンプルな管理: 契約管理がシンプルで、支払いも段階的に行われる。
ランプサム契約のデメリット
- 高い入札価格: 施工業者はリスクを考慮して高めの価格を提示する可能性がある。
- 柔軟性の欠如: 施工中の設計変更や追加工事に対応しにくい。
- クレームリスク: 仕様や範囲の不明確な点がある場合、後々クレームの原因となる。
コストプラスフィー契約のメリット
- 柔軟性: 施工中の設計変更や追加工事に容易に対応可能。
- 低い初期コスト: リスクを施工業者が負わないため、初期入札価格が低くなる傾向。
- 迅速な開始: 詳細な設計が完了する前にプロジェクトを開始できる。
コストプラスフィー契約のデメリット
- コスト不確実性: 総費用が予測しにくく、予算オーバーのリスクが高い。
- 管理の複雑性: コストの詳細な追跡と管理が必要で、発注者の監督が重要。
- 施工業者のインセンティブ不足: コスト管理の意識が低くなる可能性がある。
施工主の視点から見たメリットとデメリット
ランプサム契約のメリット・デメリット
施工主の立場としてランプサム契約のメリットは、予算内でプロジェクトを完了すれば、確定した利益が得られるため、コスト管理や効率的な施工技術を駆使すれば利益を最大化することができます。
また予算が決まっているため、工事期間中に収益の予測がしやすいという点があります。
施工主と協力業者間でランプサム契約をした場合は、追加のコスト交渉などの機会がなくプロジェクト管理がシンプルになるのもメリットです。
逆にデメリットとしては、契約上の所掌範囲で予算を大幅にオーバーした場合、リスクは全て施工主が負担するため、不確定要素が多いプロジェクトでは契約リスクがかなり高くなります。
また相場変動など予想外のコストや時間超過が発生すると、利益が確保できなくなる可能性が出てきます。
また発注者からの設計変更や追加要求に対応することが難しく、追加契約ではなく新たに別で契約を結ばなければなりません。
入札時に関しては固定価格契約となるため競争力のある入札を行う必要があり、かえって利益率が圧迫されるか、もしくは工程が逼迫するなどの弊害が出てきます。
コストプラスフィー契約のメリットとデメリット
施工主としてのメリットは確実に予算を作成することができるため、コストオーバーのリスクが低く、利益を確実に得ることができます。
また設計変更や追加工事に柔軟に対応ができ、発注者の要求んい迅速に答えられるのもメリットの一つです。
デメリットとしては、予算を決める上でコストの詳細な検討が必要で、施工期間も管理を徹底しなければならず、管理コストが増加する可能性があります。
また発注者がコストを詳細に監督するため、透明性が求められ管理負担が増加する点も挙げられます。
以下に施工主からのランプサム契約とコストプラスフィー契約の要点を表でまとめました。
ランプサム契約とコストプラスフィー契約の比較表
項目 | ランプサム契約 | コストプラスフィー契約 |
---|---|---|
予算管理 | 固定価格で予算が確定 | 柔軟だがコスト管理が必要 |
リスク | コストオーバーのリスクを負担 | 追加契約できるのでリスク小 |
変更対応 | 対応が難しい | 柔軟に対応可能 |
利益の確定性 | 予算内完了で確定した利益が得られる | 利益が変動する可能性あり |
競争力 | 高い競争力が必要 | 初期入札時の競争が少ない |
管理の複雑性 | シンプル | 複雑なコスト管理が必要 |
インセンティブ | 高い | 固定フィーの場合、インセンティブが低下 |
施工主としてどちらの契約を選ぶべきか
プロジェクトの特性やリスク許容度に応じて適切な契約形態を選択することが重要です。
端的にいうと、
固定価格による予算確定が重要で、設計変更が少ないプロジェクトにはランプサム契約が適しています。
一方、柔軟な対応が求められるプロジェクトにはコストプラスフィー契約が適しています。
以下に当時それぞれの契約で受注した現場社員の声を聞いてきたので、以下で解説します。
ケーススタディ1: ランプサム契約の成功例
大型ショッピングモール建設プロジェクトにおいて、ランプサム契約が採用されました。
詳細な設計と明確な範囲定義により、予算内でプロジェクトが完了し、施工業者も発注者も満足のいく結果を得ることができました。
ゼネコン社員(当時現場主任)
つまりこの例の場合、”詳細な設計と明確な範囲定義により〜”が重要な一文となります。
詳細な設計(ここで言う詳細な設計は契約する前の基本設計だと思う)を行ったので、確実な工程の作成、必要十分な設備・重機数量を積算する(=コストの確実性)ことができ予算に組み込むことがこの案件ではできていたことがわかります。
また明確な範囲意義が施工前にできたことで、所掌外の業務が発生した際には発注者側と交渉することができ、その分のコストは請求することができるので確実な利益を生み出すことに繋がったことがわかります。
つまり、契約前に基本設計を行いプロジェクト概要をつかむ+見積書作成時に明確な所掌分け(DOR)をすることがランプサム契約の施行を成功させる上で必要であることがわかりますね。
ケーススタディ2: コストプラスフィー契約の成功例
医療施設の建設プロジェクトでコストプラスフィー契約が採用されました。設計変更や追加工事が頻繁に発生しましたが、契約形態のおかげで柔軟に対応することができ、最終的には高品質な施設が完成しました。管理こそは大変でしたが笑
ゼネコン社員(当時工事長)
この場合、最後の”管理こそは大変でしたが〜”がポイントとなります。
コストプラスフィー契約の場合、発注者に提出した見積の細かい範囲まで成果品として証憑を作成する必要があります。
つまり現場管理では施行した構造物の写真管理だけではなく、使用した細かい重機や設備を一つ一つ写真を撮り、出来高書類として作成しなければ発注者に支払ってもらえません。
逆に出来高管理ができていればその分確実に利益を出せると言うことになります。
まとめ
本記事では、ランプサム契約とコストプラスフィー契約の特徴、メリット、デメリットについてゼネコン(土木エンジニア)の視点から詳しく解説しました。
プロジェクトの特性に応じて適切な契約形態を選択することが、プロジェクトの成功に繋がります。
最終的には、発注者と施工業者の間で明確なコミュニケーションと理解が必要です。
この記事が、ランプサム契約とコストプラスフィー契約の理解に役立ち、適切な契約形態を選択する際の参考になれば幸いです。